Japanische Klassiker mit Furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lesen Sie つゆのあとさき von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.725 Zeichen · 148 Bildschirme
矢田は何の事やら気がつかなかったらしく、石の上に両脚を踏みのばしたまま洋服の上着を脱ぎ、ネキタイを解きかけたが、君江は女中が茶を運び、続いて浴衣を持って来る時まで、そのままぼんやり隣の火影を眺めていた。何ともつかず、突然君江は待合というところへ初めて連れ込まれた時の事を憶い出したからである。場処は牛込ではなく、大森であったが、中庭を隔てた植込の彼方に二階の灯影を見ながら男と二人縁側に腰をかけて、女中が仕度するのを待っていたその場の様子は今夜と少しも変りがない。変ったのは自分の心持ばかり。その時分恐しかったり珍しかったりした事は、もう馴れた上にも馴れきって、何とも思わなくなってしまった。
「君さん。何かたべるか。もう支那蕎麦ぐらいしか出来ないとさ。」
矢田の声に君江は振返ると、洋服を浴衣にきかえ、立ってしごきを結びかけている。
「わたし、ほしくないわ。」と君江も一重羽織の紐を解きかけた。
女中は矢田の洋服を入れた乱箱を片隅に運び、「今夜はどこもふさがっておりますから、お狭いでしょうけれど、ここで、どうぞ。」と床の間につづいた押入から夜具を取出したので、二人は再び濡縁に腰をかけて庭の方を向いた。