Japanische Klassiker mit Furigana
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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
Lesen Sie 季節のない街 (きせつのないまち) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 201.379 Zeichen · 394 Bildschirme
「そんな厄介をかけちゃあ申し訳がねえ、うっちゃっといてくれ」
「そうはいかねえ、あにいとおれの仲でおめえ」河口は立ちあがった、「これが黙って見ていられるかって、ねえ、相手は誰だっけ」
「およしよ、ばかだねえこの人は、すっかり酔っちゃってるじゃないかさ」と良江が云った、「お勝さんのところへなだめにゆくんだろう、相手は誰だっけなんて、いったって話なんかできやしないよ」
「大丈夫だよ、これっぱかりの酒で酔ってたまるかえ」
「酔ってるよ、だめだったらおよしってばさ」
良江の口ぶりは彼を止めるのではなく、唆しかけるように聞えた。もちろん、彼女にそんな意志はない、亭主が酔いすぎているから、いってもむだだとわかっていたのである。
けれども、人間はいつも意志によって行動するものではない。良江が亭主に「ゆくな」と云ったのは、亭主が酔いすぎているのを認めたからであると同時に、そういう止めかたをすれば、亭主がやっきになって自分の我をとおす、という癖のあることを知っていた。認識論的に知っていたのではなく本能で感知していた、というべきであろう。したがって、彼女がその亭主を唆すような調子でなにか云ったとしても、それは完全に意識外のことであって、彼女自身には些かも責任を負う必要のない問題であった。