Japanische Klassiker mit Furigana
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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
Lesen Sie 放浪記(初出) (ほうろうき(しょしゅつ)) von 林 芙美子 (はやしふみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 103.349 Zeichen · 207 Bildschirme
彼の人は私を睨み殺すのかも知れない。生唾が、ゴクゴク舌の上を走る。
「許して下さい!」
泣き伏す事は、一層彼の人の胸をあおりたてるようだったけれど、私は自分がみじめに思えて仕方がなかった、別れた男との幾月かを送った此部屋の中に、色々な幻が泳いでいて私をたまらなくした。
――引越さなくちゃあ、とてもたまらない。私は机に伏さったまゝ郊外のさわやかな夏影色を、グルグル頭に描いてみた。
雨の情熱はいっそう高まって来た。
「僕を愛して下さい、だまって僕を愛して下さい!」
「だからだまって、私も愛しているではありませんか……。」
せめて手を振る事によってこの青年の胸が癒されるならば……。
私はもう男に放浪する事は恐ろしい。貞操のない私の体だけど、まだどこかに、一生を託す男が出てこないとも限らない。
でも此人は、新鮮な血の匂いを持っている。厚い胸・青い眉・太陽のような瞳。あゝ私は激流のようなはげしさで、二枚の唇を、彼の人の唇に押しつけてしまった。
六月×日
淋しく候。
くだらなく候。
金が欲しく候。
北海道あたりの、アカシアのプンプン香る並樹舗を、一人できまゝに歩いてみたい。