Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 146.773 Zeichen · 294 Bildschirme
だが、次郎にとって、事柄はそう簡単なものではなかった。お芳は、今となっては、彼にとってただ一人の「母さん」であり、彼のお芳に対する思慕は、まだ十分深まっていたとは言えなかったにせよ、彼女の愛を失うことは、彼の本田における唯一の新しい希望を失うことであった。しかも、一年後、いよいよ本田に帰った場合の彼の生活は、お芳の存在によって、かえってこれまで以上のみじめなものにさえなる恐れがあったのである。
あるまじきことだ、と考える人があるかも知れない。だが、「自然」はいつも人間の「願望」よりも強い。そして、人間が「あるまじきことだ」と思うことを、しばしばあらしめるものだ。「願望」が「自然」に打克つように見えるのは、その「願望」が「自然」に即し「自然」の流れに棹ざしている時だけなのである。お芳から次郎を遠ざけ、その代りに、恭一と俊三をいつもお芳の身辺に近づけておくことが、「次郎のため」の願望を自然の流れに棹ざさせる道であったとは、決していえなかったのであろう。
「自然」の最も深いところに根を張っているはずの肉親の愛ですら、何かの不自然を敢えてすることによって、或はゆらめき、或は枯れる。