Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひゃくしんのふ

百唇の譜

野村 胡堂

Lesen Sie 百唇の譜 (ひゃくしんのふ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.209 Zeichen · 25 Bildschirme

Aozora Bunko

「真弓殿」

「ハイ」

「近頃不躾だが、その懐紙を見せて貰えまいか」

「何うなさいます」

真弓は驚いて、唇を押えた二つ折の小菊を持ち直しました。

「真弓殿の唇は、よく熟れた茱萸のようで、唇の紅さが、そのまま小菊の上へ写りそうでならない。一寸拝見――」

「あれ、千代助様、私は口紅は付けては居りません」

「それは言うまでもない。真弓殿の唇より紅い口紅が何処の世界にあろう」

千代之助はそう言い乍ら、片手を縁の板に突いて、斜下から夢見るような真弓の口許を見上げるのでした。

調子は如何にも冗談らしく聞こえますが、言葉の底には妙に真剣さが溢れて、真弓は思わず、振袖を右手に巻いて、自分の唇を隠したほどでした。

「真弓殿」

「…………」

「真弓殿」

「私はもう嫌、千代之助様は、からかいなすってばかり――」

華奢な撫肩をプイと反けて、島田髷を少し後ろに反らせ乍ら二つの袂を膝の上で揉んで居ります。

「真弓殿、からかいや冗談では無い――この通り大真面目な私の顔を見るが宜い」

千代之助は娘の膝へ手を掛けて、少し邪慳に自分の方へ振り向け乍ら、

「折入って一生の願いがある。真弓殿、聴いてくれまいか」