Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひゃくしんのふ

百唇の譜

野村 胡堂

Lesen Sie 百唇の譜 (ひゃくしんのふ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.209 Zeichen · 25 Bildschirme

Aozora Bunko

悪魔の望み

「よく解りました。そんな人数に加えて下すって、百人目の満願に私の唇を所望されるのは、女冥利というもので御座いましょう。この場ですぐ捺して差上げましょう」

「口紅は」

「これに」

尼の手は側の用箪笥に入りましたが、何やら探し出すと思う間もなく、サッと宙に閃めいて、千代之助の首へ、

「あッ」

尼の逆手に握った剃刀は、ハッと思う間もなく、薄手乍ら千代之助の喉笛を斬ってしまったのです。

「何をする」

「お待ち、私は紅が欲しかったんだ」

尼は投げ出した「百唇の譜」を拾って流るる千代之助の血潮を唇に塗ると、帳面の最後の紙へ茱萸のような二つの唇は、正に紅々と百枚目の紙に印されたのでした。

悪魔の望み

「御覧、この血で捺した私の唇、お前、見覚えがあるに相違ない」

「何?」

千代之助は、あまりの驚きに傷手も忘れて、流るる血潮を押えるように、尼の手許を覗きました。幸い剃刀は奪い取りましたが、此女は何をやり出すか、うっかり側へも寄れません。

「九十九番目のも、そうじゃない。九十八番目のも違う。九十七番目のも――」

茱萸型、花片型、いろいろの唇の捺し形を、百番目に捺した、自分の血潮の唇形と比べて行く尼の手元を、千代之助は夢うつつに見詰めるばかりです。