Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひゃくしんのふ

百唇の譜

野村 胡堂

Lesen Sie 百唇の譜 (ひゃくしんのふ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.209 Zeichen · 25 Bildschirme

Aozora Bunko

良平深手を負う

と続けました。

「…………」

「外ではない、真弓殿にはあの通り立派な許婚の夫があり、私のような者が、どんなに思ったところで末始終添い遂げられる筈も無い」

「あれそんな事は――」

「黙って聴いておくれ――せめては、後の思い出に、その優れて美しい唇の跡を、口紅で紙へ捺して私にくれまいか」

「まア」

「半沢氏は、やがて真弓殿の身体も心も自分のものにするだろうが、私は――この私にはたった一枚の唇の捺し形が残るばかりの時が来るだろう」

千代之助は、打ち萎れた風情で、芝居の女形がするように右の掌を懐へ軽く挟んだりしました。

まだ誰も知っては居ませんが、二人はもうそんな嬉しい仲だったのです。

良平深手を負う

「千代之助様、斯う?」

真弓は一パイに紅を含んだ唇を濡らし、その上から半紙を二つ折にして、堅く押さえました。

二人は、人に見とがめられないように、真弓の部屋の前まで辿り付いて、化粧道具の中から、口紅の皿を取出させて斯んなつまらない悪戯に耽って居るのでした。

「もう宜いだろう」真弓の唇から、そっと半紙を取ると、その上には、紅々と可愛らしい唇の跡が丁度二片の紅薔薇を散らしたように写されて居ります。