Japanische Klassiker mit Furigana
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ひゃくしんのふ
百唇の譜
野村 胡堂
Lesen Sie 百唇の譜 (ひゃくしんのふ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.209 Zeichen · 25 Bildschirme
「唇で紙へ?」
尼もさすがに驚いたようですが、気を取り直して、
「御仏に仕える私が、口紅など持って居る筈は御座いません」
「…………」
千代之助もハタと困じました。その隙に尼は、前にのべられた半紙綴の分厚い帳面を取上げて見ると、白紙は最後たった一葉であとは一枚一枚、鮮かに描いた花片――と見たのは、紛れなく、口紅で捺した女の唇の形です。
「あッ」
千代之助は、あわてて取上げましたが及びません。数十枚とも知れぬ唇の捺形とその側に記入された年号月日に忙しく目を通した尼の顔は、怒りとも蓋恥とも付かず蒼ざめてワナワナと顫えます。
「見られた上は隠しても仕様が無い、御覧の通りこれは私が今までに契った女の唇を捺したもの、丁度九十九枚だけ溜りました。貴方の唇を捺して下さると、丁度百枚、これで私の『百唇の譜』は出来上ります。浅ましいと思って下さるな、これが昔から男の望みと言われた大願だったのです」
千代之助は、さすがに恥入る風情に首を垂れます。それにしても、この男の美しさももう三十近い筈ですが、打見たところは二十一二、相変らず水も滴れそうで、こんな悪魔的な事をやり乍らも、少しも人に憎まれない不思議な魅力があります。