Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.633 Zeichen · 74 Bildschirme
四
四
諦めるにつけ悟るにつけ、さすがはまだ凡夫の身の悲しさに、珍々先生は昨日と過ぎし青春の夢を思うともなく思い返す。ふとしたことから、こうして囲って置くお妾の身の上や、馴初めのむかしを繰返して考える。お妾は無論芸者であった。仲之町で一時は鳴した腕。芸には達者な代り、全くの無筆である。稽古本で見馴れた仮名より外には何にも読めない明盲目である。この社会の人の持っている諸有る迷信と僻見と虚偽と不健康とを一つ残らず遺伝的に譲り受けている。お召の縞柄を論ずるには委しいけれど、電車に乗って新しい都会を一人歩きする事なぞは今だに出来ない。つまり明治の新しい女子教育とは全く無関係な女なのである。稽古唄の文句によって、親の許さぬ色恋は悪い事であると知っていたので、初恋の若旦那とは生木を割く辛い目を見せられても、ただその当座泣いて暮して、そして自暴酒を飲む事を覚えた位のもの、別に天も怨まず人をも怨まず、やがて周囲から強られるがままに、厭な男にも我慢して身をまかした。いやな男への屈従からは忽ち間夫という秘密の快楽を覚えた。多くの人の玩弄物になると同時に、多くの人を弄んで、浮きつ沈みつ定めなき不徳と淫蕩の生涯の、その果がこの河添いの妾宅に余生を送る事になったのである。