Japanische Klassiker mit Furigana
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ずいひつ しほんたいへいき
随筆 私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 56.947 Zeichen · 114 Bildschirme
私に茫々の回顧をさせた。いらい何十年もつい訪うていなかったのだ。主人の手紙によると私が書いた「三佳亭」の額やら色紙が遺墨として今も蔵ってあるという。遺墨とあるには私も笑った。じつにそれほどなご不沙汰だったのだ。しかしそこでは青野季吉氏や前田河広一郎氏、満谷国四郎氏とも知って忘れ難い私の文筆始めの旧地である。すべてきのうみたいな気がする。
花やらお酒やらもお祝いにとたくさんもらった。勲章の上にこんないただき物はなんとも恐縮にたえなかった。花はまだ客間から書斎をいっぱいに染めているが、お酒のほうは自分は少量しかいけないので客に飲んでもらうのにむしろほねがおれた。また、私が煙草好きだというのを随筆か何かで知ってのことか。ピース二箱(二十箇)をお祝いにと郵送してきたひともある。この一読者は中野区の某印刷所で鉛版工をしているという十八歳の少年だった。用箋二十数枚の読書感想の末に「ぼくの働いた金でぼくの気持です。どうぞ、どうぞ」と結んであった。その手紙を書くにも工員宿舎で寝る前の少時間を一週間もかかって書いたといってある。私はそのピース一本をさっそくいただいてすいながらつい涙が出てこまった。