Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
その後――やや久しいこと、お綱は茜色に変ってくる雲と山に明日を思い、弦之丞は、山絵図を按じて、山へかかる二つの道について考えている。
そこは廃寺の方丈のあとであろう。荒れはてているが、古ぶすまの白蓮には雲母のおもかげが残っていた。古風な院作りの窓から青い月影がしのびやかに洩れている。
荒涼とした室内の、くもの巣だらけな欄間や厨子に、はげ落ちた螺鈿の名残りが猫の目みたいに光っていて、湿っぽい妖気を漂わせ、かびと土の香をまぜたような、一種の臭いが面を衝つ。
「明日のために」
との心がまえで、あれから峠を下りた弦之丞とお綱は、充分な眠りをとるべく、この廃寺へ入った。
眠ろう。眠らなければいけない。
お綱は経筥にもたれ、弦之丞は何かに腰をかけて、杖に肩を支えていた。しかし、しきりと旋舞する毒虫やバサと壁をうつ蛾の音に、ふたりの神経は容易にしずまらなかった。
「明日は剣山にかかるのだ」
そう思う昂奮も、よけいに眠りを拒んでいる。ほとんど、死の世界のような寂寞さも、かえって心を冴えさせた。
うつうつとまどろんでいたかと思った弦之丞も、やはり眠りつかれずにいたとみえて、不意に立って、方丈を出て行った。