Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
茨の愛嬌
茨の愛嬌
母屋の奥、寂とした闇の中に、三つのつづらがすえてあった。
雪のせ笹の金紋が、薄暗いその部屋の隅に、妖魅めいた光を放って――。
召使でも置き忘れたものか、交い棚の端に裸火の手燭が一つ、ゆら、ゆら、と明滅の息をついている。
家具や調度の物のあんばい、お家様の部屋らしいが、籠行燈は墨のような色をしてお久良も誰もいなかった。
すると、その向うの納屋の内で。
やはり灯明のない暗い中で。
「船のほうでは、松兵衛という水夫が、お家様の旨を含んで、よいようにしてくれることになっております。はい、もちろん私も、それへ乗って何かとおかばい申しますから、ご心配はございませぬが、ただあぶないのは、安治川を出ますまでの間で……」
あたりをしのぶ新吉の声。
その合間に密やかなのはお綱と弦之丞の言葉らしい。
「じゃ、私に方寸もございますから、お家様が数寄屋のほうをを防いでおります間に――」
やがて仕切戸が開いたかと思うと、静かな人の気配が中廊下へ出てきた。
新吉は先に前の部屋へ入って、つづらの側へ手燭を持ってきた。ガチャリと、ふところから合鍵の音をさせる。
中の荷はいつかほかへ移してあると見えて、つづらの中の四角な闇が、人を吸うべく待っていた。