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Japanische Klassiker mit Furigana

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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme

Aozora Bunko

私はそれを信じよう、考えてみればもともとから何もなかったお綱じゃあないか」

眠りを粧っているまぶたから、いつか、涙……涙……涙……とめどなくながれている。

南無大師遍照金剛――。

廃寺の内陣で唱える人声があった。お綱は、今宵この荒れ寺に、自分たちのほかにも行き暮れた遍路が雨露をしのいでいるのを知って、そっと、涙をふきながら弦之丞を見た。

杖により、壁にもたれて、寂としているその人は、寝ているのか、起きているのか分らない。白い行衣の裾を、榧の煙がうすく這って――。

お綱は遠いところの、鉦と詠歌の声に、思わず耳をすませられた。

ぎゃく縁も

もらさで救う

ねがいなれば

巡礼道は頼もしきかな

南無大師遍照金剛――

その巡礼道の身ではないが、お綱もせめて、今の一時でも、その境地に安住して寝もうと念じた。しばし静かに口のうちで、あなたの詠歌の声について合せている――。

と、突然。

バリバリッと、院作りの窓を破り、おどり込んできた同心四、五名。

山支度をして十手をくわえ、まっ先に、豹のごとく飛びこんだのは海部同心の安井民右衛門。

「弦之丞、お綱、御用であるぞ」

と、雷声をつんざかせた。