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Japanische Klassiker mit Furigana

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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme

Aozora Bunko

とたんに、次郎はお綱のうしろから組みついていた。しかし、その必要はなかった。もうなんの反抗もなく、まなじりを吊りあげたまま、お綱は次郎の腕にグウと反って、だんだんにその力も四肢から抜けていった。

「……離せ」

老人が顎をすくうと、次郎は、手を放してうしろへ退いた。

お綱の体は、かれの足のほうへ仆れて、霧の中へ繭糸のように捻れて寝た。

桔梗の花の芯から夜が白む。あたりの暁闇はひと風ごとに淡くなった。無念をのんで目をふさいだお綱の顔へも、水のような微光が這っている。

見ると。

その顔に、むざんな涙の痕があった。

「……ぜひがなかった」

龍耳老人はこうつぶやいて、鼻息をみるように、ちょっとお綱の唇のあたりへ手をやっていた。

そして、そのまま、次郎をうながして立ち上がった。

「間道からお帰りになりますか」

「いや、いや、昨夜の道から」

「では、こちらのほうを下ります」

「おい、次郎よ」

「はい」

「お前だけは、間道から帰らなければいかん」

「あ、そうでした、では……」

目礼して次郎はスルスルと谷間へ入ってしまった。まるで、葉裏へかくれてゆく蜘蛛のように。

見送って、老人はすがすがしい朝風を満腹に吸った。