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Japanische Klassiker mit Furigana

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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme

Aozora Bunko

お綱にとっては、粋な万吉の姿へ、両手を合せて拝みたいほどな機会である。

こんなよい晩なんて、決して、今まで、ありはしない。

けれど、万吉が、そこから抜けてみると、なんとなく取りつく島がなく、せっかくのいい晩が、息ぐるしく、口もきけずに、過ぎてしまいそうだ。

思えば、もう一年前の夏になる。

大津の打出ヶ浜で、あの雷の落ちた晩に、雨宿りをしていた瓦小屋で、ゆくりなくこの人を見て、お綱は初恋を知った。

片恋のまる一年――、今もまだその恋は片思いかもしれないけれど――。

顧みると、涙のにじむ一年であった。

身をもやつし、心も痩せぬいた、月夜の風邪。

その一念が届いて、やっと今夜のような、たった二人でいる機会に恵まれてきたのだ――と思い躍りながら、かれの心は、まだ昔のはにかみを、どうしても脱けないらしい。

小舟の隅に寄って、もじもじと苫の藁を抜き、抜いてはそれを輪に結んで、水の中に流している。

お綱がそうしていれば、弦之丞もいつまでも黙然として、舟べりへ片肘を乗せ、ジイと、水に映る二日の月を見つめている。

「少し、寒くなりはしませんか……」

やがて、お綱がいった。