Japanische Klassiker mit Furigana
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かわいいやま
可愛い山
石川 欣一
Lesen Sie 可愛い山 (かわいいやま) von 石川 欣一 (いしかわきんいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 98.791 Zeichen · 196 Bildschirme
山に登る理由
(「樫の芽」)
山に登る理由
山の旅から帰って来ると、どうもあとがよくない。いろいろなことが詰らなくなる。何をしていいのか判らない。「ワーッ!」と騒ぎでもしないと、やり切れないような気がする。仕事が手につかぬ。――つまり急激な変化が生活に起こった後だからであろう。心とからだとのエクイリブリウムが打ちこわされるからであろう。
まったくこれぐらい、急激な変化はあるまい。山の道具をつめたスーツケースを梅田の駅にあずけておいて、自分は会社に出る。所謂五分の隙もない夏服、ネクタイ、靴下、白い靴、その晩は二等の寝台にねて、翌朝はもう山の麓である。宿屋なり、友人の家なりに着くとスーツケースをあけて、登山の仕度をする。夏帽子は古いフェルトに変る。瀟洒な夏服は、十年着古したホームスパンに変る。やわらかい、薄いシャツは、ゴバゴバしたカーキのシャツになる。クロックスの入った絹の靴下を脱いで、あつぼったい、不細工な、ウールの靴下を三足もはく。白い、どうかするとダンスでも踊りそうな靴のかわりに、大きな鋲をベタ一面に打った登山靴をはく。一年中ペンと箸とナイフぐらいしか持ったことのない右手は、アイスアックスの頭を握る。