Japanische Klassiker mit Furigana
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いんじゅうトリステサ
橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇
橘 外男
Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇 (いんじゅうトリステサ) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 154.788 Zeichen · 299 Bildschirme
黙って父は、ただマジャルドーと酒ばかり酌ぎ合って、ナフキンで髭ばかり拭いていた。母も黙って洟をすすって、一言も言わなかった。しかもその夜中に眼が醍めてみたら、悄然と私の顔を覗き込みながら、母が腰かけていた。
「どうしたの? お母さん」と起き上ったら、
「いいのだよ、いいのだよ、ちゃんと神様は見ていて下さるのだからね」と、私の蒲団の裾を直してくれた。そして、
「お父様もそう仰ってたけれど、学校へ行くのが厭だったら、もう行かなくてもいいのだよ」と小さな声で言った。
「その代り勉強だけはしないと、えらい人になれないからね。これからは先生を呼んで、家で勉強をするのだよ」
「いいんだよう、お母さん! 僕、もう何とも思ってやしないんだから」と言ったら、母はまた泣きそうな顔をして、黙って蒲団の下から私の手を握ってくれた。
少年の昔の想い出が、まざまざと瞼の上に描かれてくる。そしてとりわけ思い泛ぶのは、その晩母の立ち去った後で、しみじみと寝台の上で眺めてみた、内飜転を手術したとかいう自分の脚の人知れぬ正体であった。朝晩見慣れた自分の一部分ではありながら、今夜は特にまるで、一対の生き物でもあるかのように眼に映ってくる。