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Japanische Klassiker mit Furigana

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いんじゅうトリステサ

橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇

橘 外男

Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇 (いんじゅうトリステサ) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 154.788 Zeichen · 299 Bildschirme

Aozora Bunko

今でも心に刳り付けられて忘れられないのは、その頃のある晩であった。小糠のような雨が生暖かいむんむんするような春の気を部屋一杯に垂れ込めて、甘酸っぱい梔子の匂いが雨に打たれて、咽ぶように家の中じゅうに拡がっていた。例によって夜更けまで本を読んで寝に就いたのであったが、その神経を蕩かすような甘い匂いが鼻を衝いて、何としても眠られず、枕許のスタンドを消したり点けたりして輾転反側していたが、眼はますます異常に冴えてきて到底このままでは眠れそうにもない。

寝台の上に懊悩しているのも堪え難く、仕舞いには上靴をつっかけて、私は寝衣姿のまま、寝室の中をグルグルと歩き廻っていたが、ええクソー! 思い切って自分のこの富の力をもって、妻に優るとも劣らぬ若い美女を一つ手に入れて、妻の鼻を明かしてくれようかとも考えぬではなかったが、そう思う横から意気地なくも眼の前に泛み上ってくるのは、今私に白い眼を見せている妻の美しい姿態であった。冷たく装いながらも豊艶な臠の、しかも豊艶な臠のくせに犯し難い気品を見せて、人妻の艶かしさを処女の慎ましさに包んでいるような妻の顔……それが……その喉の下にポツンと一つ小さく付いている黒子までが、何ともいえぬ蠱惑と悩ましさとをもって、私を疼かせてくるのであった。