Japanische Klassiker mit Furigana
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いんじゅうトリステサ
橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇
橘 外男
Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇 (いんじゅうトリステサ) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 154.788 Zeichen · 299 Bildschirme
「何を失礼なことをなさるんです。何の真似です! 一体これは!」
驚破といわば、スグその指の下の紐釦を押さんばかりの姿勢であった。紐釦を押せば、たちまち階下から小間使なり、女中なりが駈け上って来るのは必定であった。
「鍵を出しなさい! 鍵を」
さっきから見れば、大分落ち付いてはきたが、それでもまだ眼を瞋らせながら手を突き出している私の剣幕に度胆を抜かれたのであろう。明らかに不快と怒りを眉の間に走らせつつも、妻は手にしていた鍵束を無言で私に差し出した。ガチャガチャと控えの間への扉を開くと同時に、私はパッと電気を入れてみた。すぐ隣りの居間を仕切る境の帷をも、勢い込めて引いてみた。しかしこの部屋も隣りの居間も、整然として誰一人潜伏しているらしい形跡もないのであった。それでも長椅子の背後、装飾戸棚、暖炉横の洋琴の陰、窓のカーテンの脹み、箪笥の扉、ありとあらゆるところはことごとく調べてみた。
意気込んだ私の身内から次第次第に力の抜けてゆくのが感じられた。そして取り返しの付かぬ恥辱を妻に与えた私の軽率さと失敗とが、競い込んだ私の気持を一刻ごとに冷やしてきた。もうそこには、妻の小社交室へ通じる、嵌文細工の道しか残された部屋はないのであった。