Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 146.773 Zeichen · 294 Bildschirme
恭一は、考えぶかそうに次郎を見ているだけだった。
「うむ――」
と、次郎は生返事をしながら、壜詰を上り框におくと、いそいで仏間の方に行った。仏間には田舎にいたころのぴかぴかする仏壇がそのまま据えてあり、その中にまだ白木のままの母の位牌が、黒塗りの小さな寄せ位牌の厨子とならんで、さびしく立っていた。次郎はその前に坐ると、眼をつぶって合掌した。
観音さまに似た母の顔が、すぐ浮かんで来た。お浜のあたたかい、そして励ますような眼が、それに重なって浮いたり消えたりした。彼は悲しかった。つぶった眼から急に涙があふれて、頬を伝い、唇をぬらした。彼は、なんとなしに、この家の仏壇を拝むのもこれでおしまいだ、という気がしてならなかったのである。
「次郎ちゃん、父さんが待ってるよっ。」
俊三が仏間に這入って来ていった。
次郎はあわてて涙をふいた。そして俊三といっしょに茶の間の方に行きかけると、恭一が、足音を忍ばせるようにして、二階からおりて来た。彼は、俊三の方に気をくばりながら、
「次郎ちゃん、ちょっと。」
と呼びとめた。
次郎が近づいて行くと、恭一は、梯子段をおりたところで、自分のからだをぴったりと次郎のからだにこすりつけて、ふところにしていた右手を、すばやく次郎の左袖に突っこんだ。