Japanische Klassiker mit Furigana
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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Lesen Sie 渡良瀬川 (わたらせがわ) von 大鹿 卓 (おおしかたく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 280.528 Zeichen · 557 Bildschirme
かつ子は急にそれを思い出して、眉根をひそめた。だが、正造はそれに答えず、聴き手が妻だということも忘れたように、
「去年は県会が建議案を出したが、県会のうちには足尾銅山のお蔭で利益を得ている地方の議員もいるし、問題を闇に葬ろうと策動している者もいるから駄目だ。一方、被害民が県庁へ請願してもこれも埒があかない。こんなことでは、この火急を要する事態が何時解決されるかまことに覚束ない。事実、一栃木県下の地方問題ではなし、どうしてもこれは国会を通じて広く世間にも訴えねばならん。またこれこそわしの責任というものだ」
「政治むきのことは私によくわかりませんが、農家を思えば本当に気の毒です。あなたがその決心なら、思い通りに存分にやって御覧なさい。お父さんは見送ったし、あなたにすればもう後に気に懸ることはないのですから……お位牌は私の息のあるあいだは大切に御守り申します」
「うむ、それだけはお前に頼みますぞ」
かつ子は立って、仏壇の蝋燭をとりかえ、それから静かに寝床へ入った。寒々と凩のひびきをきき、足をちぢめて眠る様子だった。
正造は行燈の火をかきたてて、再び書類を取りあげたが、瞳はただ宙をにらんでいるだけで、脳裏に去来するものは、自分がこの秋数回にわたって見てまわった被害地の蕭条たる天地だった。