Japanische Klassiker mit Furigana
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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Lesen Sie 渡良瀬川 (わたらせがわ) von 大鹿 卓 (おおしかたく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 280.528 Zeichen · 557 Bildschirme
「出かけねばならぬから、早く御飯にしてくれ」
昨夜は帰りが遅かったから、今朝のことを頼んでおくわけにいかなかったのである。だが、気が急ぐので飯の炊けるのを待ってはいられなかった。お茶漬の支度をさせて手盛りで一枚だけサラサラと掻きこんだ。幸徳が来たのはそれからまもなくで、正造はすでに身支度を調え、端坐して待ち構えていた。幸徳が黙って紙包を手渡すのを、正造も黙って受け取って懐中ふかくしまいこみ、意味ふかい目礼をして立ちあがった。幸徳もつづいて立って、なにか心もとない気持で正造のあとを追った。廊下の冷さが足裏からひたひたと心に触れた。正造は玄関で古びたよれよれの外套をまとい、さきごろ須藤時一郎から贈られた黒の高帽子をかぶって、すぐ用意の俥に乗りこんだ。俥夫弥三吉はなじみの客が今日はいかなる大事に赴くか知るよしもなく、無造作に梶棒をあげた。車上に腕組して黙々と揺られてゆくその後影を見送って、幸徳はただ独りいつまでも佇んでいた。哀れとか気の毒とかいうよりさらに痛切な感慨に、胸が重苦しくなるばかりだった。
議事堂のあたりはまだ人通りもまばらで、構内には登院の俥の影も数えるほどしかなかった。