Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(七) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 330.262 Zeichen · 662 Bildschirme
もう行く先のあてはないのだ。また、あとへ退く所もなかった。天涯の孤軍である。「いっそ、よからん!」と、尊氏は胸のうちで言っているかのようだった。必然、一死を期したに相違なく、迷いも澱みもない姿とその眉は何か清潔な感をすら左右の者に覚えさせた。
「直義」
「はっ」
「聞いたな」
「うかがいました」
「いまは秘しておくにおよばん。太宰府の陥落、少弐妙恵の死、すべて、ありていに全軍へ告げわたせ」
「こころえました」
「待て。さらにこう言いそえておけ。敵の菊池勢は二、三万の大軍と聞きおよぶ。味方はこの小勢だ。しょせん、勝目はあらじと、怯む者は、疾う疾うここを去って立ち退けと申せ」
直義は、すぐ立った。そして尊氏の床几布令のままを、あなたこなたでくりかえし叫んでいた。
さすが一瞬は死の風が通ったようなひそまりだった。しかし、怯み騒ぐらしい動揺はなく、宗像の大宮司も、一族百余人を、加担人に提供し、また、秘蔵の黒鹿毛の駒を、
「み軍のはなむけに」
と、尊氏へ贈った。
すでに明け方へかけては、刻々と、敵のうごきもここへ聞えている――
一挙、太宰府を落し、その勢いで、なおぞくぞく前進中と聞えていた菊池武敏を主力とする阿蘇、秋月、黒木などの九州宮方の大軍は、今暁早や、博多箱崎の地点に近し――という情報がしきりだった。