Japanische Klassiker mit Furigana
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よしとししゃせいちょう
芳年写生帖
野村 胡堂
Lesen Sie 芳年写生帖 (よしとししゃせいちょう) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.626 Zeichen · 26 Bildschirme
眼は縁の柱に伸上る手負に吸い付けられて、娘の身体はあまりの恐怖に蟲ほども動きません。
「口惜しいッ」
キリキリと鳴るおよつの歯、風の無いのに、サッとなびく黒髪、柱に絡んだ手が緩むと、手負の身体が、ゾロゾロと崩折れて、庭のお浜を覗き加減に、ワナワナと双手を差伸べます。
最早、背に迫る死の手、お浜をつれて、八寒地獄の底までも行く積りでしょう。
芳年は思わず画帳を取上げました。死の一瞬手前の、怨女の悪相が、名筆に従って、サラサラと描き上げられて行くのです。そのかみ、猛火の中のわが娘を見たという、仏画師良秀のように、――人の世の掟を超えた、芸道三昧の恍惚境にひたり切って、――浮世絵師芳年の顔は、名ある高僧のように澄み切ったのでした。
大蘇芳年の傑作「英名二十八人衆句」は斯うして出来上りました。徳川末期の江戸を彩った、血みどろの世界が、「団七九郎兵衛」になり「稲田新助」になり、「直助権兵衛」になり、そして怨を含んで殺されて行く「笠森お仙」の美女殺戮の図となったのです。
芳年の無慚絵が持った境地、その生々しいリアリズムは、明治画壇に大きなスタートを与えました。