Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
啓之助の手を遁れるとともに、心のうちで、
「もう、どんなことをしたって、阿波へなんぞ戻りはしない」
と、永別を告げてきたお米は、そこに、少しも変りなく賑わっている大阪の町を眺めて、なんとなく後ろめたい気持であった。
怖ろしい体験と、執念ぶかい男のなぐさみに耐えてきた女は当然、心も容も変っている筈。それは、境遇の導くままに任せている間は、気がつかない姿だけれど、久しく接しない故郷の町へ入ってみると情けないように変っていることが、その人自身にもありありとみつめられる。
両河岸をゆく人――橋の上を通る人――、すべての視目も、自分ひとりに注がれているように感じた。そして、その肩身のせまい気おくれが、お米に日傘をかざさせた。
もっとも、親船を下りる前から、お米にはあらかじめ強い世間意識があったとみえて、土地の者に、こんな姿を見られるのはイヤだといって、囲い女好みに、阿波で啓之助がこしらえてくれた衣類をスッカリ派手なものに着かえ、髪も娘らしい形に、自分で結びなおしてしまった。
それでも、まだ緻密な女の心は、気がすまないとみえ、幾夜幾たび、浅ましい男の快楽に濡れた唇へは、濃すぎるほどな口紅をつけて、いまわしい思い出のかげを玉虫色に塗り隠した。