Japanische Klassiker mit Furigana
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みなかみきこう
みなかみ紀行
若山 牧水
Lesen Sie みなかみ紀行 (みなかみきこう) von 若山 牧水 (わかやまぼくすい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 102.087 Zeichen · 203 Bildschirme
その時までも同じ様に彼は立っていた。上に行き下に行き、四五間の間を廻りながら片手に石を持って半鐘を見上げているのである。鰹節売はいつの間にか荷を片附けて、姿は見えなかった。
長い食事が終ると、私は立って障子をあけたが、もう白痴の姿も見えなかった。そして半鐘には冷たい月の光が落ちていた。月夜の富士を心に描いて惶てて私はそとに出た。宿から少し坂を登った所から富士はよく仰がれた。朧な月の影を帯びて、昼間よりも一層高みを増して墨絵の様に仰がれた。月には大きな暈があった。見渡す野原いちめんに冷たいその暈の影が落ちているのが感ぜられた。
ぐっすりと眠っていると、恐ろしい物音が私を呼び覚した。繭買と鰹節売とが私のまん前の部屋で掴み合いの喧嘩を始めていたのである。徳利や皿の割れる音が続いて起った。苦笑しながら蒲団を被っていると、二三の人々が駈けつけて来た。暫く経って後、うとうとと私はまた眠って行ったが再び異様な音に襲われた。半鐘の音である。しかもツイ軒先で鳴るそれである。驚いて私は飛び起きた。そして雨戸を繰りあけた。月光に浮いて一人の男が柱の上の半鐘を打ち鳴らしている。