Japanische Klassiker mit Furigana
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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
Lesen Sie オリンポスの果実 (オリンポスのかじつ) von 田中 英光 (たなかひでみつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.277 Zeichen · 147 Bildschirme
中村さんは、小さい唇をとがらせ、「うち、つまらんわア、もう男のひとと、遊んではいけない言うて、監督さんから説教されたわ。おんなじ船に乗ってて、口利いてもいかん、なんて、阿呆らしいわ」ぼくも、合槌うって「すこし、変ですね」と言えば、あなたも「ほんとうにつまらんわア」中村嬢は、益々雄弁に「ほんとに嫌らし。山田さんや高橋さんみたいに、仰山、白粉や紅をべたべた塗るひといるからやわ」と、なおも小さな唇をつきだします。ぼくは只、中村さんに喋らしておいて、心のなかでは、つまらない、つまらない、と言い続けていました。
やがて、あなたは、剽軽に、「こんなにしていて、見つけられたら大変やわ、これ上げましょ」と、ぼくの掌に、よく熟れた杏の実をひとつ載せると、二人で船室のほうへ駆けてゆきました。ぼくも、杏の実を握りしめ、くるくると鉄梯子をあがって、頂辺のボオト・デッキに出ました。
太平洋は、日本晴の上天気。雲も波もなく、ただ一面にボオッと、青いまま霞んでいます。ぼくは、手摺に凭れかかって、杏を食べはじめました。甘酸っぱい実を、よく眺めては、食べているうち、ふっと瞼の裏が、熱くなりました。