Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ふたおもてくらべぼたん

両面競牡丹

酒井 嘉七

Lesen Sie 両面競牡丹 (ふたおもてくらべぼたん) von 酒井 嘉七 (さかいかしち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.317 Zeichen · 25 Bildschirme

Aozora Bunko

それは、お稽古やすみの、ある霧の深い午後でございました。その二、三日も前から、お天気は、毎日のようにどんよりと曇って、低くたれ下った陰鬱な空が、私たちの頭を狂わさずにはおかない、というほどに、いつまでも、何時までも、じっと、気味悪く、地上の総てを覆いかぶせていたのでございました。ところが、その日の、お昼すぎからは、思いもかけぬ濃霧が、この港の街を襲うて参ったのでございました。まだ、日は高いのでございますが、重くるしく、ずっしりと、空いっぱいに、たれこめた鼠色の雲の堆積から、さながら、にじみ出るかのように、濃い、乳色の気体が立ちならんだ人家の上を、通りの中を、徐々に、流れはじめたのでございました。私は、その頃、少しばかり買物がございましたので、三の宮の『でぱあと』まで出むいていたのでございます。買物と申しましても、別に、あの辺りまでわざわざ行かねばならぬ訳もなかったのでございますが、今になって考えますれば、たとえ、何の理由がなくとも、あの日、ああした場所まで、出かけるように、前の世から定められていたのでもございましょうか。……私は、『でぱあと』で、新柄の京染や、帯地の陳列を見せて頂き、かえりには、お母さんのお好きな金つばでも買ってあげましょう――と、かように考えまして、参ったので、ございました。