Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 167.285 Zeichen · 330 Bildschirme

Aozora Bunko

「本当に主でしたの」

「どうだかな」甲斐は喉で笑った。

「それから、ここへ鯉を釣りにいらっしゃいますの」と宇乃が訊いた。

甲斐はそっと頷いた、「生きていたら、もういちど会いたいと思ってね」

「もう何十年も経つのでしょう」

「私が九つのときだからね」

「まだ生きているでしょうか」

「その子でもいいんだ」と甲斐が云った。

宇乃はじっと流れを見まもり、心のなかで、くびじろのようだ、と思った。あのくびじろも、ながいこと追っていらしった。おじさまは人間よりも、鹿や魚のほうを愛していらっしゃる。樅ノ木や、鹿や、古い鯉などのほうが、人間よりもお好きなのだ、と宇乃は思った。

――どうしてだろう。

どうしてかしら、と思い、そういう甲斐がいかにも孤独で、寂しい人のように感じられ、われ知らず太息をつきながら、そっと甲斐の横顔を見あげた。するとその、宇乃の視線を感じたのだろう、甲斐が静かに振向いた。

「退屈になったな」と甲斐が云った。

宇乃はいいえとかぶりを振った、「おじさまと二人だけなら、いつまででも」

宇乃は囁くように云った。あまりに低い声だったので、その囁きは流れの音に消され、甲斐には聞きとれないようであった。