Japanische Klassiker mit Furigana
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いんじゅうトリステサ
橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇
橘 外男
Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇 (いんじゅうトリステサ) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 154.788 Zeichen · 299 Bildschirme
くるに従って胸を躍らせながら、遠くから響いてくる自動車の音に耳を澄ましていたのであった。が、十一時ついに待ちに待った妻の自動車はいよいよ砂利を軋ませて門内に滑り込んで来たのであった。妻は自分の留守中にこうまで私の手配りが届いているとは、露些かも気が付かなかったのであろう。コツコツといつものごとく踵の高い靴で絨毯を踏んで、二階へ上って行く音が私の耳を打ってくる。それがすっかり階上へ上り切ってしまった頃を見澄まして、私はそうっと書斎を立ち出でた。その辺に給仕の姿は見えずとも、やがて扉の締りを付けるとでも思っていたのであろう、玄関の扉はさっと引き開けたままになっている。私はその扉をさも玄関番の給仕でも閉めているかのごとく音立てて閉めて電気を消すと、その一角からそうっと戸外へ滑り出た。春の夜とはいいながら、夜気が冷たく襟頸へ滲み込んで、利鎌のような凄い下弦の月が植込みのはずれにかかっている。自動車を車庫へ入れて妻の運転手は、今出て来るところであった。
「おいボルダロ!」
呼んだのが私とわかったのであろう、怪訝そうにしかし硬くなって、
「ハ!」とボルダロは佇立した。