Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 200.443 Zeichen · 398 Bildschirme
飯島は、めずらしく子供のようにはにかみながら、しばらく頭をかいたあとで、こたえた。
「あります。」
みんなが拍手した。拍手にまじって、だれかがとん狂な声で叫んだ。
「小母さんはさすがに体験家だなあ。」
それでまた笑いが爆発した。朝倉夫人も笑いながら、
「大河さんは?」
みんなは、飯島のときよりも興味深そうな目をして、一せいに大河を見た。大河は、しかし、近眼鏡の奥に、どこを見るともなく目をすえ、とぼけたようにこたえた。
「ありませんね。うっかりして、恋をしたこともまだないんです。だから、ぼくは入塾してから一度も手紙を書いたことがありません。さびしい人間ですよ。」
みんなは腹をかかえて笑った。中には、たべかけた芋を吹き出したものもあった。朝倉先生も夫人も、むろん笑った。ただ次郎だけは、どうしても笑えなかった。かれには、そんなことをいった大河がいよいよ気味わるく感じられたのだった。
かれは、ふたたび作業がはじまるまで、とうとうその場の空気にとけこむことができず、まともに人の顔を見ることさえしなかった。それがいよいよかれを苦しめた。自分はもう、友愛塾の中の人間ではない。