Japanische Klassiker mit Furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lesen Sie 玉藻の前 (たまものまえ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.703 Zeichen · 261 Bildschirme
この夏以来の気鬱も一度に晴れて、彼の胸は今夜の大空のように明るく澄み渡ってきた。
「玉藻、どうじゃ。みなもあれほどに言うているぞ、お身がまずその短尺に初筆をつけいでは……。予が披講する。早う書け」
玉藻はやはり打ち傾いていたが、やがて低い声で上の句を口ずさんだ。
宿すべき池は落葉に埋もれて――
これだけ言って彼女は急に呼吸をのみ込んだ。彼女は逆吊るばかりに眼じりをあげて、衝と起ち上がって縁さきへするすると出ると、今までは気がつかなかったが、明るい月は俄に陰って、重い大空はこの世を圧しつぶそうとするかのように暗く低く掩いかかって来た。難題を出して得意でいた人も、この難題に屈託していた人たちも、今更のように眼を働かせて陰った大空と暗い広庭とを眺めた。虫も声をひそめたようにその鳴く音を立てなかった。
玉藻はまじろぎもしないで、だんだんに圧し懸かって来るような暗い空をきっと睨みつめていると、忠通も端近く出て、ただならぬ夜の気配をおなじく窺っていた。
「ほう、やがて夜嵐でも吹き出しそうな。この春の花の宴のゆうべにも、このような怪しい空の色を見たよ」
彼の予言は外れなかった。