Japanische Klassiker mit Furigana
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ひゃくしんのふ
百唇の譜
野村 胡堂
Lesen Sie 百唇の譜 (ひゃくしんのふ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.209 Zeichen · 25 Bildschirme
見ると生垣の中は、ささやかな庵室で、灯も、鐘も、そこから漏れて来ることは間違いありません。二三間小戻りすると枝折門があり、押せばすぐ開くところを見ると、先刻尼を見失ったのは、多分此辺だったのでしょう。
忍び足で入口に近附くと、覗くまでもなく開け放した正面の仏壇に向って、美しい中音に経を誦して居るのは、池の端から付けて来た先刻の若い尼です。
千代之助は、泥棒猫のように入口の闇に立って、暫らく経の済むのを待ちました。
やがて尼が立ち上るのと、
「お頼み申す」
千代之助の訪なうのと一緒でした。
「ハイ」
「行暮れて、ことの外難渋いたします。暫らく軒の下を拝借いたし度い」
「ハイ」
深山幽谷にでも踏み込んだような、芝居がかりの声に呆気に取られたのでしょう。灯の灯先にすかすように、尼は其儘立ちすくみます。
「早速のお許しで辱けない、御免下さい」
誰も入れとも何んとも言わないのに、千代之助は庵室の入口に腰をおろして居りました。男気が無いと見定めたからの事でしょうが、優形で、無類の美男と言われた千代之助は、何処へ行っても無礼な仕打で通って来たのでした。
「…………」尼法師は鈍い光にすかして、黙って千代之助の顔を見詰めました。