Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(四) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 229.324 Zeichen · 458 Bildschirme
琵琶のせいでもないらしい」
「では、もういちど、弾いてごらんなさい。母はさっきからここで、さるお方へ手紙をかきかけていましたけれど、こんどは、そのつもりで聴きますから」
草心尼は、筆をおく。
そのかすかな音にうなずいて、覚一はふたたび、忠度都落ちの一節を弾じ直した。そしてこんどは心ゆくまで気が乗ッていた容子のようであったが――“さざ波や志賀のみやこは荒れにしを、むかしながらの山桜かな”と語りかけたあたりへ来ると、とつぜん、舌打ちするように四絃を一ツぴしゃッと撥ッて、
「ああ、やはりいけない!」
「どうしてなの、覚一」
「お母あさん。……どこかに人の気配がしませんか」
「いいえ、たれも」
「床下だ。私のいるこの部屋の下にちがいない。人間がいる」
「えっ?」
草心尼は血のけをひいた。
――ここの床下にたれか人間がひそんでいる?
思うだけでも、ぞーと、草心尼は肌がさむくなった。
「まさか」
しかし、この子のかんは時によりびっくりするほどよく中る。もう二十歳をすぎた覚一なのだが、いまだに母の彼女には、いちいち「この子は。この子が」であった。手をひいて都の空へのぼって来たあのころも今も、それはちっとも変っていない。