Japanische Klassiker mit Furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
けれどもそれで、ほんとうに何の疚しいところもなく安心していたかと申しますと、もう早くから心のおくに何か自分にも分らない疑いの影がきざしまして、とき/″\それに苦しめられたことがないでもござりませなんだ。その時分、愚僧はしば/\自分が眼あきでありながら眼くらの真似をしていることに、云い知れぬ恐ろしさを覚えたものでござります。それはお上を欺いているのが相済まないと云う心持、それもあったのでござりますが、しかしそんなことよりも、此の眼が見えるのがよくないのだ、瞳に映る世界と云うものが何かしら自分に害をするのだ、と云う懸念が、御前に控えておりますときに、取り分け御台様のお側に近うおりますときに、何処からともなく湧いて参りまして、そのために斯う、体がわな/\ふるえ出すことがござりました。斯様に申しましたゞけでは、お分りになりますまいけれども、愚僧は暫く朝鮮国におりまして異郷の空の雨風に曝され、明け暮れ征馬のいなゝきと鉄炮の音ばかりを聞き馴れておりましたのが、久方ぶりに都へ上って参りまして、ついぞ生れてから見たこともない奥御殿の、きらびやかなお座敷へ出仕したのでござります。