Japanische Klassiker mit Furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
「小幡助六郎殿ならば、武勇の誉の高いお方、そのくらいなことはあるでござりましょう」
と、乳母は感動して、ほんとうの忠義と云うものはこう云う時に分るのであると云ってから、
「お姫さまとわたくしとが此処を通り合わせましたのも何かの縁、せめて遺骸を拝ませて貰って、餘所ながら供養をして上げとう存じますが、それも叶わぬのが口惜しゅうござります」
と、比叡おろしの吹きすさぶ中を逢坂山へかゝりながら涙を流した。そうかと思うと、
「田中兵部大輔どのは憎いお人だ。恩知らずだ」
などゝも云った。それも道々取り沙汰するのを聞いたのであるが、徳川殿の云いつけで治部少輔を生け捕る役目を勤めているのは、田中兵部大輔であると云う。なるほど、兵部どのは殿様と日頃親しい仲でもあり、同じ故郷の生れでもあれば、そう云う人があの伊吹山の麓の村々、在々所々へ追手を差向け、間道や谷間の隅々までも土を掘り返し岩を揺り起して捜索したのでは、殿様とても安き心地はおありなさるまい。定めし今頃はひもじい思いを遊ばしながら、うっかり里へ出ることもならずに、淋しい山奥にじっと隠れていらっしゃるのであろう。こゝらあたりの街道でさえ日が暮れると急に心細くなって来るのに、そんな山奥の夜はどんなか。