Japanische Klassiker mit Furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
と、急に彼女の手を強く曳いた。
「でも、まあ、これは何なの」
子供の癖で、大人がそんな風に外らすと却って訳を聞きたくなるものだから、娘はそこを動こうとせずに、歌の文句と父の首とを代る/\見くらべては、その間にある意味を探ろうとした。此の文句の中には、治部殿だの、石田だの、「みつなり」だのと云う言葉がある、だから父のことを詠んだものには違いないのだが、父がどうだと云っているのか、娘の智慧では洒落が解釈出来ないのであった。
「ねえ、ばあや、歌が書いてあるのじゃないの」
「さあ、何が書いてございますやら」
「これはお父様のことを詠んだのでしょう、ねえ、そうでしょう」
ついうっかりと、こんな場所で「お父様」と云う語を口走ってしまった軽はずみに、娘ははっとしたが、それより早く乳母が、
「しっ」
と云って、娘を体ごと自分の前へ引き着けながら、口で叱る代りに笠の中から睨んで見せた。
挿絵
と、その時二人のうしろの方で二た足三足此方へ歩いて来るけはいがしたが、意外に近々と寄って来て、
「もし、―――」
と云った者があった。
「もし」
乳母は何とも返事をしないで、その人影の方へ笠の庇を低く傾け、娘を一層しっかりと両手の中へ抱え込んだ。