Japanische Klassiker mit Furigana
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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Lesen Sie 花と龍 (はなとりゅう) von 火野 葦平 (ひのあしへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 410.131 Zeichen · 824 Bildschirme
動かない。
そっと、近よった。眼がひきつり、乱杭歯をむきだしにして、唇の部厚な口が、ポカッと開いている。狸のようである。マンは、耳を男の胸にくっつけてみた。それから、そこらに散乱している煙草の葉をかきあつめ、笊に入れた。それを持って、水車小屋を出た。
井戸の底から見あげるような空に、うす赤い夕焼雲がただよい、一羽の鳶が悠々と舞っている。あたりには、家もなく、人影もない。キョーン、と一声、遠くに、狐の声が聞えた。
マンは、水車のところに来た。笊を置き、水車をまわしている瀬の岸にしゃがんだ。落ちて来る谷川の流れで、手を洗った。それから、水を両手ですくい、ごくごくと飲んだ。咽喉がひどくかわいていた。澄んだ冷たい水が、食道から胃袋へ通ってゆくのがわかり、
「ああ、おいしい」
と、思わず、声が出た。
かすかな黄昏の光のなかで、マンは、すぐ眼のまえの流れに一匹の鮠のいるのを認めた。水はかなりはげしく流れているのに、小さな魚は流れにさからって、間断なく鰭をうごかしながら、ほとんど停止している。すこしずつ、進む。それを見ると、マンはしいんとした気持になり、すこし落ちついた。