Japanische Klassiker mit Furigana
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さけぬさんざ
避けぬ三左
山本 周五郎
Lesen Sie 避けぬ三左 (さけぬさんざ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.846 Zeichen · 22 Bildschirme
のだ、これがそのほうにはわからぬか三左」
三左衛門の顔がいつか柔かくほぐれていた、ながいあいだ、重い荷物を背負った人のようだった眉つきが、雨去る空のように少しずつ明るくなって、その唇もとに微笑さえみえはじめた。
「おねがいがございます」やがて三左衛門が云った。
「なんだ」
「まことにわが儘なおねがいですが、小田原城を見とうございます」
「小田原を見たい、そうか」康政は三左衛門の心を察した、「よし見せてやろう、誰ぞまいれ、三左を山へ運ぶのだ、楯の用意をしろ」
軍兵八人が、楯の上に三左衛門をよこたえて、二子山を登っていった。今日もよく晴れあがった空には雲一つない、相模灘も青い畳を敷いたように凪いでいる。
楯は山の中腹でとまった。
三左衛門は片手を眼庇にして東を見た、……はるかに、相模野はかすむはてまで一望である、小田原城は指呼のうちにあった、彼はじっと眼を凝らして、その城郭のすがたを見ていたが、やがてゆらりと空をふり仰いだ、そして恍惚とした声ではれやかにこう云った。
「ああ、……いい天気だな」
その声でみんな空を見た、絶えて久しい三左の「いい天気」である。空をふり仰いでこういうことに気付いた兵たちは、思わず顔を見合せて笑った。