Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
お米は今この二階へ上がってきたばかりであった。四国屋へ行って明日のことを頼んでおいてから、すぐとその駕をここへ廻し、そして裏二階へ上がってみると、弦之丞がただひとりで燈下に刀の手入れをしている。
かれの眼が刀の肌に吸いつけられたまま、自分の姿が迎えられもしないので、お米はやや不平がましく、前に坐ったのであるが、氷のような光を見ると、駕のうちから考えてきた恋の言葉や媚めきも萎えおののいて、ジッと息をのんでしまった。
早く鞘に入れればよいのに――
こう思いながら耐えていた。
けれど弦之丞はいつまでも、刃斑にとどまる過去の血の夢に見入っている。もちの木坂で斬って斬って斬り飽いたあの夜の空模様は、なおまざまざとしてここに影を宿している。
これから先もこの無銘の刀が、幾多の血を吸うべき運命をもつのであろう。法月弦之丞という持主の白骨となる日が来た後も、人手から人手へ転々として、愛慾の血にぬられて行くに違いない。
そんな想像をえがくらしく、かれの眸が、ふと、お米のほうへうごめいた。お米は、なんということもなく後へさがらずにいられなかった。
凄艶な癆咳の女と刀の姿とが、その美を研ぎ合って争うように見られたが、弦之丞は刀をやや手元へよせて、軽く打粉をたたいていた。