Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
こういったと思う相手の、こともなげな今の声を反復して、見つめあった。
そうして、彼とこれとの間に、氷のような無言が張りつまった。徳島の城下はいうまでもなく、八郡の代官手代が、血眼になって検索している人間が、捕手や同心の集まっている直面へきて、こう冷然と、みずから名乗って立つばかがあろうか。
と、一度は思ったが……。
彼の自若として不敵な態。わずかにうかがわれる面ざし、背恰好、まぎれもあらず、人相書のそれとピッタリ。
「ア――」
ややしばらくしてから度胆を抜かれた空声を筒抜かせたが、助同心の岡村、突然、
「それッ、取り囲め!」
と、ののしって、身みずから十手を揮って当ろうとするのを、
「待てッ」と、弦之丞の一喝が、その出足をくじいて、
「妄動するな、うかつに動くと危ないぞ、動かぬ切れ刀へさわってきて、われから命を落すまい。無益な殺傷沙汰はしたくないと思う、で、話がある! 静かにせい」
と、自分の配下でも鎮めるように威圧した。
十手を把る者が、これだけのことを、対手に悠々といわせただけでも恥辱の限りだ。多少の犠牲者を出すまでも、一気に、召捕ってしまえ! そうはじりじり思ってみるが、どうにもならない対手だった、どこから飛びつく隙もない、いや、既にそういう衝動を作る大きな意気というものを失っていた。