Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
ほんの常識的にわきまえていた本草学が、どれほど実際に役立ったかしれない。かれは自分の知識にある限りのことを今の上に応用した。そして、ともあれ、三位卿の落した小法帖形の海図の余白から裏へかけていちめん、微細な文字をもって埋めた。
もうわずかだ、もう五、六行。
そこまで辿りついてきて、世阿弥はふと、
「おれは死ぬだろう」
と直覚して、筆の穂をふるわせた。
「あとの五、六行を書きおえたとたんに、おれはバッタリ眼をおとしてしまうに違いない! そんな気がする! アア、あと五、六行だ」
かれは高い山の頂へついた時のような呼吸の逼塞をおぼえだした。指をやらなくても感じられるくらい、乱れた脈を搏っていた。
「アア、あと五、六行だ」
火皿の獣油がとぼりきれたのを機に、洞窟から這いだした。
ぐッたりと山牢の口によりかかって、かれはしばらく目を閉じた。そのわきに合歓の大木が立っていた。淡紅色の合歓の花と俊寛のようなかれの姿とは、あまりにふさわしくない対照であった。
尖った膝へ手を結んで、独り語につぶやいた。
「ここで、おれのなすべきことだけはした」
だが? ……と世阿弥はすぐに後の哀寂にうたれた態で、おそろしく光る、そして空虚な目を、的なく空に向ける。