Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
もっとも、悪党の常として、お十夜も、母親のことなどは、おくびにも口に出していったことはない。よその母親が手を曳かれてゆくのを、後ろからバッサリ斬るくらいな無情さは平気で持ちあわす男であって、自分の女親のこととなるとから意気地のない特殊な愛情の持主だ。
が、孫兵衛は、身辺の者や悪行仲間に、そんな微量な人情でもあることを気取られるのは、ひどく恥辱だと信じ、倶利伽羅紋々の文身に急所が一ヵ所彫り落ちているような考えで、努めてまる彫の悪人を気どっていた。
後にも前にも、たった一度、何に感じてか、その彫落しの気持を口に洩らしたというのが、木曾路へかかる旅籠で、飯盛の女を買った晩、周馬と一角に向って、
「おれもさまざまな女に逢ったが、いつまでも好きな女は、やはり、おふくろという女ひとりだ」
と、冗談まじりにいったくらいなもの。
今度七、八年ぶりで阿波へ帰り、剣山へ来る途中、郷里の川島へ立ち寄ったかれが、こッそりと、屋敷裏の丸い墓石と逢ってきたことも、誰も知らない事実である。
で、孫兵衛は、たじろいだ。
世阿弥がまだ母親のことを何かいいそうなので、すぐに殺すのは惜しかった。