Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
一刻ばかりたつと、どこの部屋もあらかた寝静まったらしく、風呂の湯を落す音と、不寝の番のあくびよりほかは聞こえなくなる。
鼻が悪いとみえて、仲間の宅助、おそろしいいびきをかいてきた。それが耳ざわりで寝られないのか、暗い中で、二、三度枕をキシませていたお米が、やがて、床の中から辷りだしたかと思うと、スウと、廊下へ出て行った。
カタンと、さるをはずす音がしたから、厠へ立ったのかと思うと、廊下へ風が流れてくる。
裏庭へ出る雨戸が四、五寸ばかり音なく開いた。
たらりと下がった緋縮緬にからんで白い脛がそこから庭土を踏もうとすると、
「オイ、オイ、オイ。お米さん」
いつのまにか眼をさまして、
「どこへ行くんだ! 少し方角が違うだろう」
と宅助の両手が、お米を元の座敷へ抱き戻してきたらしい。
並の者なら、あわてて明りをつけたり、女の逃げ支度を調べたりするところだが、そこは老巧な紐である。――気がついても、わざと、それまでの事件にはしないで、
「女のくせに、夜半に塀越しの曲芸なんぞをやると、猫の恋と間違えられて、誰かにドヤしつけられますぜ。うふッ……」
といやな笑い方をしながら、自分の寝床へ長々ともぐりこむ。