Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
「お千絵様」
いつの間にか、後ろに立っていた小間使のお君が、
「――何を見ていらっしゃいますの? ……」とそばへ坐った。
「こんなものが、あの萩垣根の下に落ちていたので」
「まア! ……」とお君は仰山に、「この女の顔とあなた様と、生うつしでございますよ」
不用意に、突然そういってしまってから、小間使のお君はハッと思った。
お千絵の顔色もうすく変っていた。
「これはあの、さっき、江戸表からお越しになった与力方が、殿様とお話中に見えなくして、たいそうさがしておりました人相書、御用人様へ返してあげて下さいませ」
子供をすかすように取りあげて、せかせかと持って行った素振を、かの女は、いつになくひがんで見ていた。
その晩から、お千絵はまた寝苦しい様子……秋の長夜。
「生うつし!」と口走ったお君の言葉も、妙に心のこだわりとなって、無意味を有意味に考えられてならない。
それに。
周囲の者はみな左京之介に命じられて、かの女にかの女の境遇を知らせまいとしていたが、お千絵の心は、だんだんに、その秘密の霧をとおして、断片的ないろいろの不審を、想像の糸でかがっていた。
そして、おぼろに輪郭を察してきた。