Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
今またその告白をくり返して――
「なんでこのふた心と矛盾を抱いて、これ以上、幕府の栄禄を食み得ましょうか!」
というのだった。
「多少、江戸表にも、心のひかれることがない身ではござらぬが、果てしのない凡情の延長へ辿ってゆくより、むしろこのまま帰府を断念して、元の虚無僧、一管の竹笛に余生を任して旅に終るほうが、自由で本望に思われます。拙者のためにと仰せ下さるならば、もうこの上のおすすめ、ひらに御無用に願いたい」
もう鴻山にも万吉にも、出世の無理強いをすすめるようなありあわせな厚意は、かれの真実と潔癖の前にいいだされなくなった。
で――黙然とうなだれてしまったが、その沈黙がくるとすぐに、わっと、こらえを破って泣く声をきいた。
はっと、皆の目は、泣き伏したお千絵の姿に吸いつけられる。
お千絵は最前から弦之丞の心もちをきいているうちに、あたりが真っ暗におぼえる程な失望に血を激しながら、今ここで、自分の心をいいだす勇気もなく、目の前を通りすぎて行こうとする運命に対しても、悲しむよりほかの力をもたないかの女であった。
「ああ……」
しかし、その痛々しい姿は、弦之丞の心をみだし、また責める。