Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme
「おや? ……」
中二階へ上がって、もしやと、そこの襖をあけてみると、牡丹唐草の赤い蒲団は敷きぱなしになってあったが、どこへいったか、お米の姿は見えなかった。
自棄酒をのんで、血の逆ったようなことを口走ってはいたが、まさかと、たかをくくっていたお吉は、びっくりして、夜具のまわりや押入れの中を見たが、お米は、もう帰らぬつもりで、すっかり支度をして出て行ったらしく、帯揚ひとすじ残っていない。
「いくら若いにしろ、捨鉢になっているにしろ、この雨が降っているのに、どこへ……」
お吉は、二階の小窓を開けて外を眺めた。そぼ降る雨の中に、渋蛇の目をさして的もなく出て行ったお米の姿が目の前にちらついた。
そして、何の気もなく窓の根元になった屋根の上をみると、小さな鬢盥が出してあって、その中に、唇を拭いた紙と、緋撫子をしぼったような、鮮麗な色の血が、あふれるほど吐いてあった。
「あ……」
お吉は、袖口を鼻に当て、怖ろしい、そして悲しむべき、お米の遺物に、寝起きの肌を寒くさせた。
けれど、みつめているうちに、その鮮麗な紅は、病をうつすという恐怖も、穢ないという感じをも、お吉の脳裡からとり去って、ただ、ひとりの美女が、血みどろに、目ざす所へ、脱けて行った殻のように見えてきた。