Classiques japonais avec furigana
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しんせい
新生
島崎 藤村
Lisez 新生 (しんせい) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 334 815 caractères · 663 écrans
五十五
東京から神戸までも、上海までも、香港までも――どうかすると遠く巴里までも追って来た名状しがたい恐怖はその時になっていくらか彼の胸から離れた。そのかわり、兄に手伝って貰って人知れず自分の罪を埋めるという空恐しさは、自分一人ぎりで心配した時にも勝って、何とも言って見ようの無い暗い心持を起させた。兄の手紙には「例の人」とあるだけで、節子の名を書きあらわすことすら避けてある。彼は母や姉と同時に普通ならぬ身であるという彼女を想像した。
五十五
間もなく岸本は節子からの便りを受取った。彼女は郡部にある片田舎の方へ行ったことを知らせてよこした。
「到頭節ちゃんも出掛けて行ったか――」
それを言って見て、岸本は以前の食堂の隣から移って来た新規な部屋の内を見廻した。窓が二つあって、プラタアヌの並木の青葉が一方の窓に近く茂っていた。その並木の青葉も岸本が巴里に着いたばかりの頃から見ると早や緑も濃く、花とも実ともつかない小さな栗のイガのようなものが青い毬を見るように葉蔭から垂下った。一方の窓は丁度建築物の角にあたって、交叉した町が眼の下に見えた。あの東京浅草の住慣れた二階の外に板囲の家だの白い障子の窓だのを眺め暮した岸本の眼には、古い寺院にしても見たいような産科病院の門前にひるがえる仏蘭西の三色旗、その病院に対い合った六層ばかり