Classiques japonais avec furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lisez 春いくたび (はるいくたび) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 70 094 caractères · 142 écrans
兄妹の父村松将太夫が、老職と意見の衝突をして小笠原志摩守を退身してから十五年、二君に見えずと云って清貧のうちに父は死し、母も五年以前に父を追って逝った――それから今日まで、三樹八郎は兄妹の運命を開拓するために、寝食を忘れて活躍してきたが、梶派一刀流免許皆伝の腕前も、仕官の途がなくては役に立たず、
――まあ、どうにかなるだろう。
いくら急いでも相手のない相撲は取れぬと、父とは反対にしごくのんびりとかまえていたが、ついにどうにもならず今宵に及んだ。――言葉どおり、実際もうどうにもならぬのだ、今夜は雛祭りの宵節句で、少しばかりの馳走を調えたが、それは兄妹の最期の晩餐のつもりである。夜半になったら、妹を刺し、自分も屠腹して潔く世を辞そうと覚悟していた。
「はい、お待遠さまでした」
加代が支度のできた食膳を運んできた。
今日は二人とも久方ぶりで風呂を浴び、加代は貧しいながら髪化粧をしている。乙女十九、幸い薄く育ったが備わった品位と美しさは、兄の眼にも惚れ惚れするくらいだった。
「今宵の主はおまえ、……さあ酌をしてあげよう」
三樹八郎は白酒の瓶子を取った。
「いやですわそんな、どうぞお兄さまからお先に」