Classiques japonais avec furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lisez 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) de 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 113 247 caractères · 229 écrans
今くらい、僕に対する愛でお前の心がはちきれそうになっていたのを見たことがない」あの人は落ちつき払って、少し口元に微笑を泛べながら、飛んでもないことを言いつづけた。「僕らの家庭生活は、近頃無事平穏のために、気のぬけたごむ鞠のように無感激になっているんだ。お前も近頃実にだらけきっていたし、僕もこの無刺激な生活には堪えられなかった。あの手紙はみんな僕が書いたんだよ。僕たちの生活への一つの刺激剤としてね。筆跡がどうしてもごまかしきれないので、いつか『妾のこの手紙の文字さえ、貴方の筆跡にそっくりになってきたでしょう』なんて書いてみたんだ。お前に看破られるかと思って、ずいぶん用心したよ。お前が手紙の封をきったことも、鍵穴から覗いていたこともよく知っていたさ。この効果を見るために僕は四十日間狂言をしていたんだ」
妾はその時は、あの人の言葉をうそともほんとうとも判断することができなかった。だが、数分間たつと、すべての事情が朝日にとける霜のように氷解してきた。そして実を言えば、あの人があんなことを言わないでいてくれた方がよかったと思ったくらいだ。安心しきって、心の張りがすっかり弛んでしまったからだ。